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東京都あきる野市|地域の“つながり”が生む安心の場 ― あきる野市「カフェエール」から広がる認知症の共生社会

取材:2025年9月13日 あきる野市 中央公民館

東京都あきる野市で月1回開かれている認知症カフェ「カフェエール」。コーヒーとお菓子を囲みながら、ちょっとした講話や情報提供を聞き、思い思いに語り合う場です。「認知症があってもなくても、自分らしく暮らし続けたい」。そんな願いを共有する人たちが、肩書きや立場を越えてつながる場になっています。

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 高齢化が進むあきる野市で求められた「ふらっと立ち寄れる場」

「ここに来ると、ほっとする」。参加者のそんな一言が印象的です。

主な会場は中央公民館の一室で、そこには認知症のある本人、家族、専門職、地域住民、そして行政職員まで、さまざまな人が集まります。代表を務めるのは、かつて地域包括支援センターで働いていた菊地志保さんです。 

背景には、あきる野市でも進む高齢化と、認知症とともに暮らす人の増加があります。市の資料でも、要介護認定を受ける高齢者の多くが何らかの認知症の症状を有していることが示されており、「医療・介護サービスだけでは支えきれない日常の不安や孤立を、地域でどう受けとめるか」が大きな課題になっていました。

 あきる野市では、地域包括支援センターや認知症地域支援推進員、認知症初期集中支援チームなどによる相談体制を整えてきましたが、「ふらっと立ち寄れる居場所」は、まだ十分とはいえませんでした。そうしたなかで生まれた市民主体のカフェエールは、まち全体で認知症とともに生きる仕組みづくりを考えるうえでも、重要な役割を担い始めています。

エールの風景2

きっかけは“行く場所がない”という声から

菊地さんがカフェを始めようと思ったのは、八王子市で出会った一人の当事者、小野さんの声がきっかけでした。

「認知症になって、地域に自分が行ける場がない。」

その言葉を聞いたとき、「あきる野でも、気軽に立ち寄れて、一人じゃないと思える場所を作りたい」と強く感じたといいます。

呼びかけに応えたのは、同じ思いを持つ仲間たちです。小学6年生の認知症キッズサポーターから、認知症のある本人、家族、看護師、介護福祉士、介護支援専門員、ソーシャルワーカーなどを含む13人の市民ボランティアが運営メンバーとして集まり、「誰もが主役になれる場」を合言葉に活動が始まりました。

「誰も来なくても、自分たちが楽しく過ごせる場にしよう」。そんな軽やかなスタートだったそうです。

その一人が、長年医療・介護現場に携わってきた後藤さんです。「ここは、学びや出会いのある素敵な場。引退した今でも刺激をもらっています」と笑顔を見せます。

「最初は何もできなかったし、やり方もわからなかった」と語るのは、立ち上げから関わる宮本さんです。「でも、スタッフそれぞれが経験豊かで、専門知識もある。回数を重ねながら、一歩ずつ進んできました」。

当初は小さな一歩だったこの取り組みは、今では地域に根づき、当事者・家族・支援者がともに笑顔を交わす場へと成長してきました。人と人との“思いの連鎖”が、カフェエールの原動力になっています。

"水平な関係"を大切にする運営

カフェエールの特徴は、さまざまな立場の人が同じ目線で関わっていることです。

「支援する・される関係ではなく、同じ目線で関わることを意識しています。専門職も市民も、ここでは一人の参加者。皆さんの思いや体験を大切にしています」。運営メンバー全員が同じ思いを持っています。

一方で、その“水平さ”を保つ難しさも感じてきました。参加者が増えた回には、無意識のうちに立場の違いが出てしまったこともあったといいます。

「でも、その都度話し合って軌道修正してきました。運営の工夫や学びは、毎回の“対話”の中にあります。みんなで考え、学びながら育っていくのがこのカフェなんです」と菊地さんは笑います。

運営メンバーには、認知症のある小野さんと奥様、送迎を担う西さん、場づくりに力を注ぐ小野寺さん、運営全般を支える中村さんなど、多様な人がいます。

会を重ねるごとに参加者は増え、ご本人同士のつながりも広がっています。「行政の広報に掲載してもらえるようになったことで、新しい参加者が増えている」と菊地さんは話します。

当事者と家族、それぞれの想い

カフェエールには、先ほど紹介した当事者の小野さん夫妻も、運営メンバーの一員として参加しています。小野さんは副代表を務めており、「最初は緊張したが、今では顔見知りもできて楽しみになった」と穏やかに語ります。奥様も「本人は“何か役に立てているのかな”と気にしていましたが、人と会うのが楽しみになっているようです。日常の中に“楽しみ”があるだけで、私も安心できます」と微笑み、「何が正解かわからない。でも、じたばたしながら一緒に考えればいいと思えるようになった」と続けます。

カフェは、“支援の場”ではなく、“暮らしの一部”となっています。

「ここに来ると、気持ちが軽くなる」。そう語るのは、認知症のある夫と暮らす女性参加者です。「同じような立場の人と話すと、“わかってもらえる”という安心感があります。自分の中に閉じ込めていた気持ちを言葉にできるだけで、楽になるんです」。

認知症経験者からのエール

竹内さん

竹内さん(認知症の診断を受けた経験を持ち、当事者の立場から発信を続けている方 )も、カフェの温かさをこう語ります。

「エールは、人の熱意でできている場所。お金じゃなくて、みんなの想いが支えている。だから毎回参加したくなるんです」。

当事者目線の率直な言葉は、「認知症になっても、自分らしく生きていていい」というメッセージとして、参加者だけでなく運営メンバーにも大きな励ましを届けています。

“寄り添う”を実践する運営メンバーの力

市民ボランティアとして活動する運営メンバーの存在も、カフェエールを支える大きな力となっています。

送迎を担当する西さんは、「こうした場があきる野にはこれまでなかった」と語ります。「参加者の話を聞くだけでなく、自分たちの悩みも話せる。寄り添い合える場があることがうれしい。このつながりをどう広げていくかが、これからの課題だと感じています」。

場の雰囲気づくりを担う運営メンバーの小野寺さんは、「誰もが一言でも話せる雰囲気を大切にしている」と話します。「話すのが苦手な方もいますが、少しでも思いを言葉にしてもらうことで、その人らしさを知るきっかけになります。『今日ここに来てよかった』と思ってもらえるように、努めています」と続けます。

介護職の経験をもつ中村さんも、その思いに深く共感しています。「人の行動には必ず理由があります。認知症の方が外に出たがるのも、その人なりの思いがある。止めるのではなく、“なぜそうしたいのか”に寄り添うことが大切なんです」。

913日の回では、中村さんが行政の原さんへ「制度を整えるだけでなく、“人の思い”を施策へどう反映するかが大切」と率直に意見を伝える場面もありました。

現場の声が行政に届き、対話を生み、それを行政が受け止める——その積み重ねが、地域全体の“寄り添い方”を変え始めています。

行政の想い―声から始まる施策

原さん

あきる野市 高齢者支援課の原さんは、カフェエールの存在を「行政にとって大きな転機」だと語ります。

これまで市内には“場所としてのカフェ”は存在していたものの、行政として十分に関わりきれず、当事者・家族の声を施策に生かすことができなかったといいます。

しかし、カフェエールでの対話に触れる中で、原さん自身が大きな学びを得たと話します。「市民主体でこれだけの活動が自然に立ち上がったことは本当に大きな学びでした。行政は“計画をつくること”が先行しがちですが、目的を見失わずに進めるためには、市民の思いや声を施策の中心に置くことが欠かせないと痛感しています」。

原さんが大切にしているのは、行政が持つさまざまな施策を「有機的につなぐこと」です。
「認知症施策、介護予防、地域包括ケア、生活支援など、目的を見失わないよう熱意を持って、時にはじたばたしながら取り組む必要があります。行政としても地域とともに動きながら改善を重ねたい」と前を向きます。

原さんは、今後“共生社会”の実現を本格的に目指す姿勢も示します。「短期間で成果が出る分野ではありません。だからこそ継続が大切。行政だからこそできる“場の提供”を通じて、人と人のつながりを支えていきたい」と語ります。

また、市は今後策定予定の「認知症施策推進基本計画」に向け、初めから当事者・家族の声を施策に反映させる方向性を固めています。「声をあとから吸い上げるのではなく、最初から一緒に考える計画にしたい。カフェエールは、その出発点になる大切な場だと感じています」。

原さんのそのような姿勢は、参加者から「こんな行政職員が増えてほしい」という声にもつながっています。

行政だけでは支えきれないからこそ、協働で

後藤さんは「行政と地域がもっと近くなれたら」と話します。「市民が“相談しに行きづらい”と感じるのは良くないこと。カフェが、その壁をなくすきっかけになっていると思います」。

原さんも応えます。「一つの組織が背負うのではなく、多様な主体が関わることが持続可能な地域づくりにつながります。行政だけではできないことを、こうした場で一緒に進めていきたいです」。

行政は、場所の提供や情報発信、専門職とのつながりづくりなど“インフラ”を整え、市民主体の活動が継続しやすい環境づくりに努めています。カフェエールは、その具体的なかたちの一つといえるでしょう。

未来への展望——“続けること”が地域を変える

菊地さんは、活動を続ける中で「同じ思いの仲間がいること、行政が後押ししてくれることが何よりありがたい」と話します。
「完璧じゃなくてもいい。続けることで、つながりが広がる。会を重ねるごとに当事者や家族が増え、ご本人同士のつながりも生まれています」。

ここは“カフェ”というより、“エール(応援)”の場です。誰かが誰かにエールを送り合う。その積み重ねが、地域の力になっていきます。

あきる野市に根づいたこの小さなカフェは、制度の枠を超えて、人の想いが紡ぐ共生のヒントとなりつつあります。誰かの“エール”が、また次の“つながり”を生み出しています。ここで交わされる一つひとつの対話が、あきる野市の認知症施策を未来へ押し進め、「認知症があっても自分らしく暮らせるまち」を形づくろうとしています。

集合写真12

<参考>

「カフェエール」について詳しくは、あきる野市公式サイトをご覧ください。

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