• レポート

東京都港区|「脳の健康度測定会」で認知症を“自分ごと”に ~まずは知ることから。関心を深めるきっかけに~

取材:2025年3月10日 港区役所

港区役所の全景写真向こう10年は生産年齢人口の増加が続くと見込まれている東京都港区。地方に比べて高齢化の進行が緩やかな中でも、港区医師会と区が連携して行う「認知症セルフチェックシート健診」など、認知症の早期発見、早期に医療や介護予防につなげることを目的とした事業に取り組んでいます。2024年度からは、脳の健康度をセルフチェックするツール「のうKNOW®」※を活用した「脳の健康度測定会」も開始しました。港区が取り組む認知症施策のあらましと今後の展開、現場の想いを紹介します。

※「のうKNOW」は疾病の予防や診断を目的としたものではありません。

港区の「脳の健康度測定会」

デジタルツール「のうKNOW」を活用して脳の健康状態をチェックします。現在の自分の状態を知ることで、認知症予防や健康への意識を高めてもらうことに重きを置いた啓発的な取り組みです。必要に応じて医療機関の受診勧奨なども行います。

実施の背景

認知症の早期発見、早期診断の重要性が高まる中、医師会との協力に基づいた認知症検診のあり方を模索していた

内容

第1・2回

  • ①「のうKNOW」による脳の健康度測定
  • ② 認知症支援コーディネータ(希望者のみ、測定結果問わず)

第3・4回

①、②およびブレパサイズ体験
脳の健康度測定会が、会議室で実施されている写真

案内・応募

【案内】 区のホームページ、広報誌、チラシによる案内、区営施設にポスターを掲示
【応募】 電話もしくはイベント予約システム経由のウェブ申し込み(応募多数の場合は抽選)

対象・参加者

  • 第1回 2024年7月8日 50歳以上 45名(定員50名、応募120名)
  • 第2回 2024年10月5日 50歳~64歳 45名(定員50名、応募26名+前回落選23名)
  • 第3回 2024年11月1日 50歳以上 54名(定員50名、応募85名)
  • 第4回 2025年1月27日 50歳以上 46名(定員60名、応募55名)

第1回は50名の定員を大きく上回る120名の応募があった。参加者の対象年齢を限定した第2回は応募者が定員に達しなかったため、参加者の約半数は第1回で落選した65歳以上の応募者となっている

1年目の活動を振り返って(脳の健康度測定会)

参加者の年代別内訳

60歳未満の参加者は190人中55人(29%)で、現役世代の参加も一定数見られました。参加者の78%が女性であり、男性の参加は少数にとどまっています。
若い世代からも一定の関心を集めることができましたが、男性参加者を増やすための工夫が今後の課題として挙げられます。
参加者の年代別内訳を棒グラフにした図

参加者アンケート

脳への関心、もの忘れに対する漠然とした不安などが参加の理由になっていました。脳の健康度チェックが安心感や予防意識の向上につながっている様子もうかがえました。
アンケート結果をまとめた図

事業の振り返りと今後の展開

応募状況や参加者のニーズを考慮して、第3回からブレパサイズを追加、別の認知症関連の取り組みとも連携を図
るなど、柔軟に事業を展開。一方で、当初構想した医師会との連携には至らず、今後の調整が課題となります。
事業の振り返りを抜粋しまとめた図

認知症セルフチェックシート健診(早期発見・早期受診につなげる)

認知症の理解促進や予防意識の向上を目的とした啓発的取り組みである脳の健康度測定会に対し、早期発見や早期
受診につなげるために実施しているのが「認知症セルフチェックシート健診」です。実施主体は港区医師会で、結果に
基づいたフォローアップを区と地域包括支援センターが担っています。

対象

区の健康診査・がん検診を受ける50歳以上の区民

内容

12項目のセルフチェックシート(東京都作成の「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」に港区独自の質問3項目を追加)を用いた認知機能チェック

フォローアップ

認知機能の低下やもの忘れなどが疑われる場合は、後日電話で状況を確認。65歳以上は地域包括支援センターの認知症
支援コーディネーターが、64歳以下は区の高齢者支援課職員が担当する。必要に応じて、医療機関の受診、専門職の介入、予防活動の紹介などにつなげる。
2024年度の振り返りと手応えと課題をリストアップした図

Staff Interview:高齢化率が低い地域だからこそ、認知症施策に力を入れる意義がある

羽場さんと加賀さんの近影

港区の担当者に「脳の健康度測定会」と「認知症セルフチェックシート健診」の手応えや反省点、今後の認知症施策などについて話をうかがいました。

港区 保健福祉支援部 高齢者支援課 高齢者相談支援係 係長
羽場 建護 さん
港区 保健福祉支援部 高齢者支援課 高齢者相談支援係 保健師
加賀 雅子 さん

―まず、今年度の認知症セルフチェックシート健診について感想をお聞かせください

加賀 まだ最終の集計が終わっていませんが、2024年度は約6700人が健診を受けました。うち約3割がフォローアップの対象となり、電話連絡、必要に応じて訪問対応を行いました。

反省点としてまず挙げられるのが、対象を適切に抽出できていなかったことです。基準を満たした受診者すべてに連絡を行う方針としたため、すでにケアマネジャーが介入している認知症の人や、要支援・要介護認定を受けている人なども、電話連絡の対象に含まれてしまいました。また、区が追加した質問項目も、回答者によって受け止め方に差が生じてしまうなど、再考の余地があると考えています。たとえば質問の一つに仕事でのミスなどについて問うものがあるのですが、たった1回でも「ある」と回答する人もいれば、数回なら当たり前のことだと判断して「ない」と回答する人もいます。

一方で、手応えも感じました。わずか数名ですが、どこに相談すればよいかわからず不安を感じていた方を、保健所の保健師につなぐことができました。また、64歳未満を区の高齢者支援課、65歳以上は地域包括支援センターの認知症支援コーディネーターが担当したのですが、区側の担当者として感想を述べるなら、電話をかけること自体、さほど負担になりませんでした。不在の方も多く、やり取りも体調や心配事について尋ね、特に何もなければ数分で終わります。30~40人に電話するのに必要な時間は2時間ほどでした。

ただ、電話を受ける側は戸惑いもあったように思います。同意書にサインはいただいているとはいえ、セルフチェックを問診の一部と認識されている方も多く、思いもよらない電話連絡に不安や不信感を口にされる方もいました。

―脳の健康度測定会についてうかがいます。なぜ第2回のみ50~64歳以下に限定したのでしょうか

加賀 脳の健康度測定会を事業化するにあたり、実際に私たちも「のうKNOW」を体験しました。そのときに感じたのが、若い世代の方にも興味を持ってもらえる可能性があるということです。50~60歳代前半の人たちが認知機能の測定を行う機会は、現状ではあまり多くありません。現役世代に認知症への関心を高めてもらうきっかけを提供するという観点から、対象年齢を絞ることは十分に意義があると感じました。

羽場 もともと50歳以上を対象にしていたのですが、定員を大きく上回る募集があった第1回は、65歳以上の方が多数を占めました。第2回の対象年齢については、その結果と若年性認知症の早期発見が区の課題の一つであることも考慮し、実際にその年代の区民がどの程度認知症に関心を持っているかの把握もかねて、試みに64歳以下の若年層に絞りました。

―第3、第4回にブレパサイズ体験のブースを設けた理由を教えてください

加賀 希望者には認知症支援コーディネーターに個別相談を受けられるプログラムにしましたが、それをしない場合は、健康度測定のみで15分程度で終わってしまいます。もの足りなさが否めません。1、2回目のアンケートで「(認知機能の)改善方法を教えてほしい」といった回答が見られたこと、せっかく足を運ばれるわけですから何か一つでも新しいことを知る、体験できる機会を提供できないかということで、ブレパサイズのブースを設けました。

測定会の参加される方のほとんどがご自分の意志で来られています。多かれ少なかれ認知症に関心をお持ちの方ばかりだからか、ほとんどの方が立ち寄られていました。

―脳の健康度測定会について、次年度以降はどのような展開を考えていますか

羽場 今後は認知症セルフチェックシート健診と一本化し、東京都の認知症検診推進事業を活用して行う構想もあるのですが、その場合、医師会との連携が欠かせません。あらためて今年度の成果や反省点を振り返りつつ、次年度以降の方針について医師会の先生方と調整を図っていく必要があると考えています。

―今年度の脳の健康度測定会を振り返っての手応えについて教えてください

加賀 今回の測定会は、普及啓発の観点から有益だったと思います。「おもしろそうだな」と思って参加してもらい、脳や認知症に関する何かしらの情報を持って帰ってもらう。認知症の啓発では、早期発見の重要性が強調されますが、まずは認知症や脳の健康について興味を持ってもらうことが大切であって、その意味でよい取り組みができたと感じています。

「のうKNOW」はそれほど時間がかかるものではありません。他の事業と組み合わせても有意義な使い方ができるかもしれないという期待があります。たとえば、子育て世代も多く参加するようなイベントで二次元コードを配布し、各々セルフチェックをしていただくのはどうでしょうか。気軽に、ゲーム感覚で体験できますし、脳の健康度や認知症について意識するきっかけになるかもしれません。若い世代への啓発にも十分活用できると考えています。

羽場 親が認知症になり、現役世代が介護をしなければならないケースというのは、これからも増えていくと予想されます。働き盛り世代への啓発は非常に大切であり、「のうKNOW」のようなツールの活用もそうですが、私たちとしても他課と連携するなどして、幅広い年齢層をターゲットとした取り組みを進めていく必要があると考えています。

―今後も人口の増加が見込まれ、高齢化率も他自治体と比べて低い港区で、認知症の事業に力を入れていく意味について、考えをお聞かせください

羽場 他の特別区と比較しても、港区の高齢化率は確かに高くありません。だからといって、認知症施策を疎かにする理由にはなりません。誰もが年齢を重ねるにつれ、認知症を発症するリスクが高まっていくという点に目を向ける必要があります。当区の地域保健福祉計画にも、「認知症と共生する地域づくり」の実現に向けた具体的な施策を盛り込んでいます。

逆説的に聞こえるかもしれませんが、高齢化率が低い港区だからこそ、認知症施策に力を入れる意義があるのではないでしょうか。まだ認知症への取り組みに本腰を入れていない地域があったとして、もしそこが港区よりも高齢化率が高く、人口減少も進んでいたとすれば、認知症施策に取り組む私たちの姿は少なからず影響を与える可能性があると考えています。

2024年度から認知症の本人ミーティングも開始しました。ご家族が集まる認知症カフェの取り組みも以前から進めています。認知症基本法で本人起点の重要性が触れられているように、そういった場における声も丁寧にすくい取りながら、今後も必要に応じた事業展開を図っていきたいと考えています。

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「脳の健康度チェック事業」サポートのご提案
脳の健康度チェックは、体重や血圧のように気軽に自身の認知機能の状態を知ることを目的としています。「脳の健康度チェック事業」ではチェックそのものの実施に加え、地域住民の方々への広報活動、チェック後のフォローアップまで含めた取り組みをご支援いたします。ぜひ貴自治体においても何なりとご相談ください。
事業に活用する、脳の健康度チェックツール のうKNOW®(ノウノウ)
「のうKNOW」はブレインパフォーマンス(脳の健康度)のセルフチェックツールです。トランプカードを使ったゲーム感覚の4つのチェックで「記憶する」「考える」「判断する」などの脳のパフォーマンスをチェックできます。テスト結果では同年齢の平均と比べた、脳の健康度を確認できます。定期的にチェックすることで、以前の結果と比較することも可能です。
※「のうKNOW」は疾病の予防や診断を目的としたものではありません。
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