• レポート

京都府|まあいいかlaboきょうと 認知症の人の居場所を輝ける場所に 〜寛容な社会を目指す「まあいいかCafe」の取り組み〜

取材:2024年11月30日(京都府木津川市「ギャラリーカフェ人と木」/相楽郡精華町「けいはんなプラザ」)

ns1261_011日だけ借りたレストランやカフェなどで、キャストと呼ばれる認知症の人が注文をとり、料理やドリンクを運ぶ「まあいいかCafe」。注文を確認するのに時間がかかったり、配膳先のテーブルを間違えたりしても、「まあいいか」と受け入れられる穏やかで心地よい時間を、キャストとお客さん、運営サイド、ボランティアのみんなが共有します。

「まあいいかCafe」を運営する任意団体「まあいいかlaboきょうと」代表の平井万紀子さんは、母親がアルツハイマー型認知症と診断された後も「まだ働きたい」と繰り返すのを聞き、2018年3月にこの活動を始めました。2024年末までに関西を中心に計39回開催し、参加した認知症の人は延べ200人以上、来店者は3000人以上にのぼります。もともと「福祉施設で働いたこともないし、地域活動やボランティアの経験もない」という平井さんが、どのように活動に踏み出し、広げることができたのか─そこには、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」でもうたわれている認知症の人の尊厳や希望を大切にする社会、そして「まあいいか」が当たり前の寛容な社会に向かうためのヒントが詰まっています。

「まあいいかlaboきょうと」ホームページ: https://maiika-kyoto.jimdofree.com(/ 最終閲覧日:2025年3月6日)

「まあいいかCafe in 人と木」 ~オレンジロードつなげ隊実践研修~

ns1261_02今回は京都府のボランティアの認知症啓発部隊である「オレンジロードつなげ隊」の研修の一環として実施(カフェの意義や運営のノウハウを学ぶ)。4名のキャストさんの募集や現場でのサポートは主に同隊のメンバーが担当しました。

ns1261_03

オレンジロードつなげ隊のメンバーが、自分たちの地域で「まあいいかCafe」を開催したいと考え、「人と木」さんと交渉してお店を貸してもらうことになりました。今回は、つなげ隊の活動を後方支援する保健所が「実践研修」という形で開催しています。つなげ隊のメンバーは、それぞれの地域で認知症に関する啓発活動や認知症カフェの運営に関わっている、いわば“認知症のセミプロ”です。今回の経験を自身の地域に持ち帰り、その活動に活かしてもらうことが期待されます。

スマちゃん(午前の部 キャスト)

ns1261_04

シロちゃん(午前の部 キャスト)

ns1261_05

STEP1 ゼロからの出発

手を挙げれば人が集まる

2014年、認知症と診断された母親との同居を始めた平井さんですが、母親の網戸の締め忘れなど些細なことが口論の種となります。仲の良い親子だっただけに、「行き詰まり」を感じていました。そうしたなか、母親の「働きたい」という願いを知った平井さんは、2017年9月に東京で、認知症の人が活躍するイベント「注文をまちがえる料理店」が開催されると聞き、娘さんとともに参加します。

平井 フロアで働くみなさんが、お揃いのエプロンを身に着け、お化粧もし、とても素敵でした。母と一緒に暮らしている経験から、ふだん家ではこういう様子ではないのだろうと思われる方々が、本当に楽しそうで生き生きとされていました。このイベントを、大好きな京都で大好きな母と一緒に開こうと思ったんです。

ただ、私にはそうした活動の経験も人脈もなく、誰にどうアプローチしたらいいのか悩んでいました。

2018年3月、東京のイベントの企画者である小国士朗さんの講演会が京都市内で開かれました。講演会の最後に質疑応答の時間があり、私は勇気を振り絞って手を挙げ発言しました。「この活動を京都で母とやりたいと思っています。経験も人脈も何もない私たち親子ですが、知恵と力を貸していただけませんか」

講演会終了後、20名以上の方が手伝いたいと申し出てくださいました。福祉や介護関係の方が多かったのですが、主婦の方なんかは、紙に名前と自宅の住所を書いて渡してくださった方も5、6名いらっしゃいました。個人情報の扱いが厳しく言われる時代に、私のことを何も知らないのにもかかわらず、です。こんなに応援してもらえるならしっかりやらなければと背中を押される思いでした。

STEP2 開催場所の決め方

おしゃれで素敵なお店だから輝ける

講演会から間もない桜の季節、平井さんは、「友だちの友だち」の飲食店を借りて最初のカフェを開催します。来客は20数人。講演会で連絡先を教えてくれた人も数名顔を出してくれました。平井さんと2人の娘さんがケーキなどを作り、母親が接客を担当したカフェは好評で、母親もうれしそうでした。その後、ここぞというお店に目を付けては、カフェの回数を重ねていきます。

平井 まず母と一緒に一般客としてお店に行き、雰囲気をみます。オーナーやスタッフの方がどこかピリピリしているようなお店は避けたいと思っていて。そこで“良い雰囲気だな、ここでカフェをやりたい”と思ったら、オーナーさんに「とても素敵なお店ですね、一緒にこういうことをやりませんか」とお声がけします。NGだったことですか?これまでありませんね。駅から近い、バリアフリーなど、チェックポイントはいろいろありますが、一番大切にしているのは“おしゃれで行きたいと思うお店”ということです。場所や雰囲気はとても重要で、生きづらさを抱えて自分からは輝くことができにくい方たちも、環境が良ければ輝けたりするんですよね。だから若者に人気で、娘が「あそこめっちゃいいやん」と言うようなカフェで開催したりしています。

スマちゃん(午前の部 キャスト)

ns1261_06

スマちゃんの娘さん(息子さんのお嫁さん)によると、最初スマちゃんは緊張気味で、通い慣れたデイサービスに行きたそうでした。でもすぐに持ち前の社交性が発揮され、「みんな喜んでくれてはんねん。よかった。また嫁に連れてきてもらおう思って」

娘さん「そんなんやったら家でも用事したらいいのに」
スマちゃん「家はせん。まあこの子がええ子やからな、一緒にやれんねん」
娘さん「辛抱してますのん、嫁いびりされながら」
スマちゃん「よう言うわ(笑)」

シロちゃん(午前の部 キャスト)

ns1261_07 デイサービスのカラオケでシロちゃんがよく歌うという昭和の名曲を教えてもらっていると、いつしかその曲にまつわるほろ苦い思い出話に。シロちゃんが歌を口ずさむと、周囲の人も加わって大合唱。「今日は解放されてよかったぁ」とシロちゃん。

STEP3 人を集める

人脈はなくてもご縁はつながる

5回目のカフェは2018年9月、京都駅直結のホテルグランヴィア京都で開催しました。“グランヴィアで働く”という言葉が特別な響きを持つように思いました。今回は18人のキャストが約120人のお客さんの接客と給仕を担当。娘の関係で出会った学生やこれまでの知人友人、そしてこの活動を通して知り合った方々約30人が事前準備や当日のサポートをし、調理はホテルが担いました。京都市、京都府、公益社団法人認知症の人と家族の会京都府支部、日本認知症グループホーム協会など、後援12団体、協賛企業14社、協力企業3社のバックアップを得ることができました。

平井 1回目のお客さんは20名ぐらいでしたが、2回3回と続けるうちに100名近くに増え、母1人ではとても対応できなくなりました。また、カフェに来ていただいた認知症の方や介護者の方といろいろお話をするなかで、もっと人の役に立ちたい、もっと必要とされたいと思っている方は母だけでなく、たくさんいると感じました。

すぐに揃うと思ったキャストですが、実際に声をかけてみるとなかなか集まりません。グランヴィアでの開催が間近に迫っても先が見えない状況でした。

そうしたなか、運営費を賄うため、小国さんとともに「注文をまちがえる料理店」を始められた和田行男さん※に京都大学での講演会をお願いしました。その場に、和田さんを慕う京都の方々が多く来てくださり、さらに一致団結し、キャストが集まりました。それを契機に多くの出会いが生まれました。ご縁は貴重です。私は一期一会という言葉を自分なりに「一期幾会」に変え、いただいたご縁を大切にしています。

※ 介護会社・大起エンゼルヘルプ取締役。介護福祉士。 一般社団法人「注文をまちがえる料理店」代表理事。

STEP4 持続・拡散のモデルづくり

地域の人が地域で始める活動を後押し

「まあいいかCafe」を継続していくに連れて、開催場所となる飲食店の来客が通常よりも増えるなど、みんなにとってWin-Winの状況が生まれています。「まあいいかlaboきょうと」の主催に加え、共催等による実施も多くなり、行政やロータリークラブ、医師会、大学、デパート、ショッピングモールなど協働・共創する団体・企業の幅が広がっています。当初は「協賛」の意味すら知らなかった平井さんですが、仲間たちの働きかけにより、臨機応変に様々な形で実現できるようになりましたが、資金面においては、未だ苦慮しながら活動を継続しています。

平井 母のためにと始めた活動であり、“社会のため”と考えていたわけではなかったのですが、こんなに多くの方々に力を与えていただいて驚いています。

実は今、法人化に向けて動いています。私一人では厳しいので、法人としてチームを組んで活動したいと考えています。法人格がある方が、共催してくださる方々や団体さんや企業さん、行政さんにとっても安心なんじゃないかなと思うからです。より多くの方々に喜んでいただくには、ボランティアだと限界があると感じています。

ns1261_08

今後こういう展開ができるといいなあと思っています。それは、ある地域の地域包括支援センターの方が「まあいいかCafe」の活動に興味を持ち、自分たちの地域でもやりたいけれどどうすればいいかと連絡をくださったことからのお話なのですが、電話で伝えられることではないので、よろしければ私が伺って、活動の経緯や現在の運営方法についてご説明しますと提案しました。講演の打ち合わせ時に私が提案したのは、「この講演会のゴールは参加されている方々がその場で設けるグループワークで、いつ、どこでやるかの想いが出て、自分たちの地元で自分たちがやる!やりたい!!って決まることを目指して講演会を開きましょう」ということでした。

講演会には、事業所のオーナーや関心をお持ちの方々が40~50名ほど集まっておられました。私の話を聞いていただき、自分たちもやりたいという気持ちがふつふつと沸いてきてくださったようで、グループワークが始まると、地域で人気のあるお店の事業所オーナーが「僕のところで開催したいです!しましょう」と申し出があり、すると私も私もと声が上がり、結局その場で場所も日にちも決まりました。現場の運営は地域の方々にお任せすることが、もっともいいことじゃないかなと思っていたので、とてもうれしかったです。

多くの地域で、地域の方が主体となって地元の方々の力で運営する─それこそが地域力を活かすこと、地域活性化につながることだと思っています。私が主体で動くことももちろんですが、本当に地域の人が地域で行う活動がより多くの地域で根付いていくのではないでしょうか。もちろん自分でも、“自分発信”の主催のカフェを続けていきたいと思っていますが、このケースのように、コンサルティング兼講師として、各地域でカフェの開催をサポートする活動を広げたいと思っています。皆様の地域でお会いできることを楽しみにしております。

私たち社会の側が、「まあいいか」と受容することができれば、問題じゃなくなることもたくさんある。

ns1261_09

ケアマネジャーの女性と、建築関係の男性

ns1261_10女性 「注文を間違えたりもされたようですけれど、別にそれに対して“えっ!”となる人もいなくて、みんながあったかい雰囲気で癒されます」

男性 「彼女から利用者さんと接して楽しかった話とか聞いているので、ほっこりするのかなと思って来ました。(スマちゃんに“おばあちゃんの孫やで”と言われ)うれしかったですね。なんか想像してたのよりもすごい楽しくて」

女性 「施設でも“ここ拭いてください”とかお願いすると“やるやる”って手伝ってくれはる人がいるから、たぶんこれだけできる可能性はあるんやけど、やっぱり施設とかだと難しくて......だからすごくいいと思う。うん、よかったあ、また次も来たいもん」

男性 「ね、来たいな」

福祉職の女性客2人が、もし自分たちでカフェを開くとしたら誰がキャストに適任か想像をめぐらせていました。その話を後で平井さんに伝えると「、私がその場にいたら“じゃあいつにします?”って話しかけていますね」。確かに、“いつか”という日にちはないのですから。

Do Communicationは、
地域の未来に貢献する
お手伝いをします。
一緒に
素晴らしいコミュニティを
築いていきましょう!

「脳の健康度チェック事業」サポートのご提案
脳の健康度チェックは、体重や血圧のように気軽に自身の認知機能の状態を知ることを目的としています。「脳の健康度チェック事業」ではチェックそのものの実施に加え、地域住民の方々への広報活動、チェック後のフォローアップまで含めた取り組みをご支援いたします。ぜひ貴自治体においても何なりとご相談ください。
事業に活用する、脳の健康度チェックツール のうKNOW®(ノウノウ)
「のうKNOW」はブレインパフォーマンス(脳の健康度)のセルフチェックツールです。トランプカードを使ったゲーム感覚の4つのチェックで「記憶する」「考える」「判断する」などの脳のパフォーマンスをチェックできます。テスト結果では同年齢の平均と比べた、脳の健康度を確認できます。定期的にチェックすることで、以前の結果と比較することも可能です。
※「のうKNOW」は疾病の予防や診断を目的としたものではありません。
見積もりシミュレーション
脳の健康度測定(「のうKNOW」)、イベント運営の概算費用を算出できます。