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レポート
山口県周南市|周南市版 認知症予防 注)の動機づけ支援 ~「脳の健康度測定」を“自分で考え・決める”契機とする個別アプローチ~
取材:2024年7月4日 周南市福祉部 地域福祉課
どのような生活習慣や活動が認知症の発症予防、進行予防に役立つのか、何となくわかってはいても、他人事のように思えて行動に移せない。始めてみても続かない。そのような市民に対し、どのようなアプローチをとれば、予防的活動の実践へのモチベーションを持ってもらえるのか─。 多くの自治体に共通するこの課題に、穏やかな瀬戸内海に面する山口県周南市は地道に取り組んでいます。対策の鍵は、令和5年度、デジタル ツール のうKNOW®※による「脳の健康度測定」を導入するにあたり考え抜いた、“他人事を自分事に変える働きかけのフロー”にあります。
注)ここでの「認知症予防」とは、「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」ということを意味します。
※「のうKNOW」は疾病の予防や診断を目的としたものではありません。

主眼はスクリーニングではない
周南市福祉部 地域福祉課が所管する「脳の健康度測定」は、同市の認知症施策のなかで、「フレイル予防対策」「居場所づくりの支援(通いの場、サロン)」などと並び、「認知症予防に資する可能性のある活動の推進」のひとつに位置付けられています。重きを置くのは「予防」。「測定」という言葉からは、「スクリーニング」(健康に問題がありそうな人の洗い出し)が思い浮かぶかもしれませんが、市が目指すのはそこではありません。「測定参加者それぞれの脳の健康度を“見える化”することで、脳の健康を意識し、自分に何ができるのかを見いだしてもらう。その実践に向けた動機づけを支援する」ことを第一義としています。
目的:脳の健康度を知ることをきっかけに、認知症の予防的活動の実践に向けた個人の動機づけを支援する
「のうKNOW」の導入にあたり、地域福祉課では、脳の健康度の“見える化”をより効果的に「動機づけ支援」に結び付けるため、「脳の健康度測定」全体の内容・実施項目について検討を重ねました。その結果、以下のような流れで市民の主体性を引き出すことが重要と考えます。
「脳の健康度測定」の実施方法は3通り
「脳の健康度測定」には、決められた日時・会場で行う「来所型」、自宅でタブレットやスマホでセルフチェックしてもらう 「自宅型」、家庭訪問先や講座など市民の日常の場面に出向く「出張型」の3通りがあります。このうち「来所型」を例に、地域福祉課の保健師等による丁寧な個別指導と「のうKNOW」がセットになった「動機づけ支援」の実際を紹介します。
自分が今やっていることの意味を再確認 「脳の健康度測定」の実際(来所型)
最初の入り方を工夫
まず「面談シート」で、その人の生活の全体像を把握
面談シート(下図)を用い、脳の健康度の維持・向上が期待できる「12の生活習慣」の取り組み状況と、1日の活動のスケジュールを確認します。大切にしている習慣や日課、楽しみなども含め、その人の暮らしの全体像を把握する大切なステップです。
- 最初に問診を行うことで、「のうKNOW」測定後に速やかに保健指導に入ることができる。たとえば結果が良くない場合に、その原因を探り出すような印象を参加者に与えずにすむ。
- 「面談シート」を用いることで、担当スタッフが各自の経験則・感覚に頼って聞き取るのではなく、共通の視点のもとに漏れなく網羅的に生活習慣を把握できる。
- 担当スタッフが、具体的な生活習慣の改善という目的地をより明確に意識しつつ面談・指導を進められる。
- 日頃の生活について話を聞くことで測定参加者の緊張がほぐれる。担当スタッフがその人のことをある程度理解した うえで、自然な流れで「のうKNOW」測定に導くことができる。

~「面談シート」を用いるもうひとつのメリット~
共通の質問項目を設定することで、問診結果の集計を通じて「個人の問題」に加え「地域の課題」も見えてきます。
ポジティブで丁寧なフォロー
「のうKNOW」は結果がすぐにわかり
その場でその人に合わせたアドバイスができる
「のうKNOW」の測定前に問診を済ませておくことで、測定を終えると同時に、その方の生活のご様子を踏まえた結果説明が行えます。たとえば、ご自分の予想よりも結果が悪く、ショックを受けている方に対しては、即座に「でもこういう生活習慣は素晴らしいと思いますよ」「もうひとつ、これにも取り組んでみましょうか」といったお話を差し上げられる点も大きなメリットだと思います。
現在の好ましい生活習慣を
「脳の健康のための取り組み」として意味付ける
「のうKNOW」の結果をきっかけに、今何ができるかをご一緒に考えるようにしています。実際の面談では、まずは今の生活習慣の良い部分を継続するようにお勧めすることが多いですね。「それが脳の健康のための取り組みでもあるんですよ」と意味付けをする時間であり、「のうKNOW」は、今やっていることの価値を再確認するツールでもあるという印象を強くしています。
[その後のフォローアップ]
社会参加活動の場につなげる
現在の生活習慣も含め、個々の方々に合った予防活動を実践していただくのが主旨なので、通いの場につなげることを特に前提とはしていません。ただ、「脳の健康度測定」の際に直接ご本人やご家族に通いの場についてご紹介すると、「家の近くなら行ってみようか」と興味を示してくださるケースが意外に多いというのが実感です。通いの場で行っている百歳体操は、趣味のサークルなどに比べて誰もが気軽に参加しやすいので、「こういう場が各地区に広がり、根付いていてよかった」とあらためて感じています。
地域包括支援センターと情報を共有する
「脳の健康チェックリスト」を用いて受診へつなげる
認知症の兆候がみられ、日常生活への影響が懸念されるケースでは、医療・介護・福祉・行政関係者のネットワークである「あ・うんネット周南」認知症ワーキング会議で検討・作成したリーフレット「脳の健康チェックリストと相談窓口」※を活用しています。チェックリストの 該当項目についてはエピソードの聞き取り・記入を行い、医療機関(オレンジドクター等)への相談の際に持参するように本人・家族に提案しています。
※公益社団法人認知症の人と家族の会作成「認知症早期発見のめやす」を元に あ・うんネット周南 在宅医療介護連携推進会議 認知症ワーキング会議が再編
これまでの取り組みを通じて、個人が予防行動を地域で実践するにあたっては、介護予防や在宅医療、介護連携など、ほかの地域支援事業の推進、成熟も必要であり、種々の認知症施策と連動し一体的に進めることの大切さも感じました。今後も、市民の方々が認知症予防の取り組みを実践しやすい地域づくりも合わせて展開を図っていきたいと思います。
~これまでの取り組みを経て描く、今後の展開~
- 多様な測定場面を創出し、多くの市民に認知症予防について考える機会の提供を図る
「出張型」を本格展開
2年目にあたる令和6年度は「出張型」を本格導入します。それに向け、測定のためのタブレット端末を増設。地域包括支援センターや市の専門職が多様な機会を捉えて測定機会を拡大していきます。
Ex. 地域食堂のイベント会場で「のうKNOW」を実施 - 個々に応じた事後支援を図り、認知症予防の実践につなげる
「来所型」での個別支援をさらに促進
主に、丁寧な個別支援を強みとする「来所型」での動機づけ支援をさらに充実させます。 - 働き世代へのアプローチを強化し、認知症を自分事にする機会の提供を図る
「自宅型」を従業員の健康づくりに活用
周南市では、市民の健康寿命を伸ばすための取り組みとして「しゅうなんスマートライフチャレンジ」を実施しています。協賛事業所※に提供する従来の健康づくりメニューに、令和6年度はフレイル予防をサポートするチャレンジメニューを追加。そのひとつとして「脳の健康度測定」の「自宅型」を組み込み、若い世代に向けて“認知症予防への気づきの提供”を推進します。
※登録事業者数147カ所(令和6年4月現在)
山口県周南市 福祉部 地域福祉課と周南市内5カ所の地域包括支援センター(認知症地域支援推進員等)のみなさん
Do Communicationは、
地域の未来に貢献する
お手伝いをします。
一緒に
素晴らしいコミュニティを
築いていきましょう!
- 「脳の健康度チェック事業」サポートのご提案
- 脳の健康度チェックは、体重や血圧のように気軽に自身の認知機能の状態を知ることを目的としています。「脳の健康度チェック事業」ではチェックそのものの実施に加え、地域住民の方々への広報活動、チェック後のフォローアップまで含めた取り組みをご支援いたします。ぜひ貴自治体においても何なりとご相談ください。
- 事業に活用する、脳の健康度チェックツール のうKNOW®(ノウノウ)
- 「のうKNOW」はブレインパフォーマンス(脳の健康度)のセルフチェックツールです。トランプカードを使ったゲーム感覚の4つのチェックで「記憶する」「考える」「判断する」などの脳のパフォーマンスをチェックできます。テスト結果では同年齢の平均と比べた、脳の健康度を確認できます。定期的にチェックすることで、以前の結果と比較することも可能です。
※「のうKNOW」は疾病の予防や診断を目的としたものではありません。

- 見積もりシミュレーション
- 脳の健康度測定(「のうKNOW」)、イベント運営の概算費用を算出できます。