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大分県竹田市|気づきから始まる重層的なセーフティネット ~認知症の啓発、予防、早期発見に“つなぐ”工夫と働きかけ~

取材:2025年2月28日 大分県竹田市

竹田市役所の全景写真2025年2月末時点での高齢化率は49.6%。住民のほぼ2人に1人が65歳以上という大分県竹田市では、多様な認知症施策が実施されています。一つ一つの取り組みを見ていく中で気づかされるのは、いずれも単発で終わることがなく、市や地域包括支援センターの職員による“つなげる”ための工夫や働きかけのもと、他の取り組みや支援としっかりと結びついていること。支援を必要とする高齢者を見落とすことなく、適切なタイミングで医療や予防活動に結びつけるセーフティネットが、地域に広く張り巡らされています。

相互につながる竹田市の認知症対策

地域の課題を見据え、さまざまな認知症施策を展開する竹田市。認知症初期集中支援チームによるサポートにはじまり、高齢者の運転に焦点を当てた「いきいき運転健康教室」、最近は「脳の健康度測定会」など軽度認知障害(MCI)や若い世代に目を向けた取り組みも行っています。

特筆すべきは各事業同士のつながりです。「脳の健康度測定会」で認知機能の低下が疑われれば、認知症地域支援推進員が介入したり、介護予防教室の参加を促したりします。介護予防対象者把握事業の一環で高齢者宅を訪問した高齢者相談支援員が「いきいき運転健康教室」への参加を提案することもあります。

地域の高齢者と接点を持った職員が、状況に応じて関連する取り組みや通いの場に積極的に結びつけていくー。このような人を介した働きかけこそ、竹田市の認知症施策における最大の強みといえます。
竹田市の認知症、介護関連施策(一部)の流れをまとめたフロー図

いきいき運転健康教室

安全運転のサポートとともに、通いの場や包括による支援につなげる

竹田市のように公共交通が限られる山間の地域では、仕事や買い物、通院に自家用車を用いている住民も多く、運転免許の返納が生活に及ぼす影響は小さくありません。地域の高齢者が少しでも長く運転を継続できるようサポートしたい―。関係者のそんな思いから、2019年度に開始されたのが「いきいき運転健康教室」です。“つなぐ”という視点から竹田市の認知症施策を語る上で、象徴的な取り組みの一つといえます。

行政が行うこのような住民向けの教室や講座の案内は、広報誌やホームページによる告知が一般的ですが、いきいき運転健康教室ではそれらに加えて直接の“声掛け”が参加の促進につながっています。たとえば、訪問先で自家用車の傷に気づいたケアマネジャーが、あるいは訪問時の会話の受け応えに違和感を持った高齢者相談支援員が参加を促すといった具合です。年間の参加者が最も多かった2022年度は、56人中37人が声掛けをきっかけに参加していました。

教室の目的は、運転免許の返納よりも安全運転の継続をサポートすること、体力や脳の健康度測定、健康チェックの結果に基づいて適切な支援や予防活動につなぐことにあります。2023年度までの5年間で12回開催し、延べ162名の住民が参加しました。このうち約半数にあたる83名が「要指導」と判定され、フォローアップの対象に。具体的なフォローの内容は参加者によって異なりますが、地域包括支援センターの認知症地域支援推進員や高齢者相談支援員、ケアマネジャー、理学療法士など誰かが、何らかのかたちで接点を持ち続ける点は共通しており、仮に医療を必要とする状態になった場合も、速やかに受診に結びつけることが可能になっています。
いきいき運転教室の内容と流れをまとめた図

脳の健康度測定会

自宅で可能なセルフチェック方式に変更し、参加につなげる

竹田市では、2022年度から『脳の健康度測定会』を実施しています。対象年齢が40歳以上と比較的広く設定されている点が特徴で、早期発見や早期受診だけでなく、現役世代を含めた若年層への認知症啓発にも軸足が置かれた取り組みです。「のうKNOW」による脳の健康度チェックと体力測定を主な内容とし、結果に応じてフォローアップも行います。年3回開催のうち1回は参加者の年齢を限定しており、2024年度は73歳の住民が対象となりました。

竹田市は、70歳前後の高齢者でも農作業など仕事に従事していることが多く、このような取り組みでは、いかに住民の参加を促すかが課題となります。脳の健康度測定会については、これまで日時と場所を指定して実施していましたが、2025年度は対象者が自宅で、空き時間に測定できるセルフチェック方式に移行する方針です。対象者に「のうKNOW」の二次元コードを郵送し、定められた期間内に脳の健康度チェックを行ってもらう方式で、結果に応じて後日、包括の職員が面談を行う流れを想定しています。
脳の健康度測定会(2022年度〜)の対象と概要をまとめた図

認知機能検査

検査結果をかかりつけ医と共有し、専門医受診につなげる

認知症やMCIの早期発見・早期受診につなげることに主眼を置いた取り組みとして、2022年度に開始したのが『認知機能検査』です。ファイブ・コグによる認知機能検査を実施し、後日開く結果説明会で、保健師による結果説明と保健指導、体力測定などを行います。

この取り組みの特徴は、地域におけるかかりつけ医と専門医の病診連携に、自治体が行うスクリーニング検査を連動させる点にあります。保健師や認知症初期集中支援チームからの働きかけに加え、検査結果をかかりつけ医と共有し、かかりつけ医からの受診勧奨を通して、早期の専門医受診に結びつけることをめざしています。

対象者への参加案内は郵送で実施。年3回のうち1、2回目に参加しなかった対象者には、3回目の前に再度案内を郵送し、参加を促しています。
脳の健康度測定会(2022年度〜)の対象と概要をまとめた図

MCIチェックリストを活用した啓発

介護の視点から独自の質問を追加し、多様な支援につなげる

2023年度には、竹田地域保健師研究会(大分県豊肥保健所及び竹田市内の公的機関や医療施設に勤務する保健師で構成)の高齢者研究班が、日本老年精神医学会のMCIの評価尺度をもとに作成された13項目のMCIチェックリストを活用し、若い世代への啓発も視野に若年性認知症の情報を組み合わせた啓発チラシを制作しています。

2024年度は、認知症出前講座やおしゃべりサロンなどでこのチェックリストを活用しました。ただ、参加者の多くが80歳以上の高齢者で、すでにMCIの状態にあるケースも多く見られるなど、早期発見や啓発という目的から見ると、活用の場として最適とはいえませんでした。

現在は、通常版に加え、介護サービスの利用状況や同居家族の有無など、介護予防の観点からの介入につなげられる質問を加えた別バージョンのチェックリストも作成しています。今後はそのリストも含め、より若い世代が集まる場での活用を模索していく方針です。

介護予防対象者把握事業

基本チェックリストをさまざまな場面で活用し、必要な支援に速やかに

地域の高齢者の健康状態や生活状況を確認し、必要に応じて適切な支援につなぐことを目的とする「介護予防対象者把握事業」。竹田市でも4名の高齢者相談支援員が、75歳以上で介護認定を受けていない高齢者等を訪問し、基本チェックリストを用いた聞き取りなどを行っています。2023年度は対象3,659人中、約半数の1,841人を訪問しました。

認知症関連の施策とも連携が図られています。たとえば、訪問時のやり取りから違和感を持つなどした場合、支援員の判断で「いきいき運転健康教室」や「脳の健康度測定会」への参加を提案します。立方体模写による認知症の簡易検査を行うこともあり、認知機能の低下が疑われる場合は認知症地域支援推進員につなぎます。

もう一つ、竹田市の特徴として強調したいのが、基本チェックリストをさまざまな場面で活用している点です。基本チェックリストは、自治体の高齢者福祉や介護保険関係の窓口で用いられるのが一般的ですが、竹田市の場合、支援員が訪問時に使っているほか、地域住民の健康づくり組織による健康増進活動・交流の場などでも活用されています。リストを用いた聞き取りを年に数回受けている住民も少なくありません。このような多方面からの働きかけは、より早期に介護予防活動や認知症施策につなげることに役立っています。
介護予防対象者把握事業のチェックリスとポイントをまとめた図

Staff Interview:MCIを含めた認知症の正しい情報をより若い世代に

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地域包括支援センターの担当者に、「いきいき運転健康教室」をはじめとする取り組みへの思いや今後の課題などについて語っていただきました。

竹田市地域包括支援センター センター長
赤嶺 明子さん
竹田市地域包括支援センター 保健師
坂本 信江さん
竹田市 高齢者福祉課 保健師
渡部 綾さん

免許返納が目的ではなく、前向きに、安全に運転を続けられるように

赤嶺 いきいき運転健康教室は、免許の返納を前提としたものではなく、自分の運転能力を客観的に知ることを目的とする取り組みです。各種測定や検査を通して自身の状態を把握できるだけでなく、たとえば介護予防や認知症予防の教室への参加を促す助言など、安全運転を長く続けるために必要なことも明確になります。不安が払しょくされ、前向きな気持ちになれる場であることで、参加後のアンケートでは肯定的な意見や感想が多くみられるのだと思います。

測定して終わりではなく、体力測定を組み込むことでつながりを

坂本 脳の健康度測定会で、実年齢よりも脳年齢が高い結果が出た場合、中にはショックを受ける方もいます。といっても、専門医の受診や認知症地域支援推進員の介入を要するほどの状態ではありません。ただ、必要となったときに速やかに支援に結びつけるという観点からすると、つながりを持っておくことが大切になります。

いきいき運転健康教室なども同じことがいえますが、脳の健康度チェックに体力測定を組み合わせる意義は、この点にあります。理学療法士や作業療法士が身体機能を評価し、たとえば「片脚立ちがちょっと衰えているので運動教室に行きましょうか」と伝えて、通いの場につなげることができれば、本人を不安にさせることなくフォローしていくことが可能になります。

かかりつけ医への情報提供が、専門医受診につなげるカギに

渡部 2022年から始めた認知機能検査ですが、初年度はかかりつけ医からの受診勧奨につなげることができず、専門医受診に結びついたケースはありませんでした。かかりつけ医への検査結果の提供を任意とし、承諾した参加者がいなかったからです。そこで2023年度は、認知機能の低下が認められた場合は、原則としてかかりつけ医と情報共有する方針に変更し、参加者に事前に周知しました。その結果、2024年度は9名が認知症疾患医療センターを受診し、中にはかかりつけ医に勧められる前に、自分の判断で受診された方もいました。

坂本 結果説明会での結果説明を認知症疾患医療センターのスタッフにお願いしていることも、受診のしやすさにつながっているかもしれません。「あの担当の人が対応してくれるなら行こうか」と話される参加者もいて、あらかじめ顔見知りになっておくことも大事だと思います。

健康増進の保健師と連携し、職域とタイアップした現役世代への啓発を

渡部 今後はMCIや若年性認知症、発症する何年も前から病気が進行しているという認知症の特徴などについて、働き盛り世代を含め、より若い年代への啓発が重要だと考えています。しかし、高齢者を支える業務が中心の地域包括支援センターでは、若い世代と接点を持ちづらいのが現状です。たとえば、竹田市には大分県の健康経営事業所に認定されている企業や法人が多数あります。住民の健康増進を担当する市の保健師と連携し、そうした企業や職場とタイアップして啓発活動を行うのも一つの方法ではないかと考えています。

免許返納後の生活を支えるために、移動手段のいっそうの充実を図る

渡部 移動手段に関しては、ここ数年でデマンド交通(事前の利用登録や電話予約を必要とする乗合タクシー)の運行やルート拡充の実証等を行っています。生活面の支援では、介護保険・日常生活支援総合事業の住民主体サービスBの実施団体(高齢者の買い物支援などを行う地区の社会福祉協議会や住民のグループ)への補助などを行っています。

一方で、最近は介護施設が縮小傾向にあり、デイサービスでも距離の制約から送迎が困難なケースも見られるなど、数年前にはなかった課題も生じています。移動手段の有無は免許返納後の生活の質を大きく左右しますので、今後も引き続きサポートの充実に努めていきたいと考えています。

Do Communicationは、
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「脳の健康度チェック事業」サポートのご提案
脳の健康度チェックは、体重や血圧のように気軽に自身の認知機能の状態を知ることを目的としています。「脳の健康度チェック事業」ではチェックそのものの実施に加え、地域住民の方々への広報活動、チェック後のフォローアップまで含めた取り組みをご支援いたします。ぜひ貴自治体においても何なりとご相談ください。
事業に活用する、脳の健康度チェックツール のうKNOW®(ノウノウ)
「のうKNOW」はブレインパフォーマンス(脳の健康度)のセルフチェックツールです。トランプカードを使ったゲーム感覚の4つのチェックで「記憶する」「考える」「判断する」などの脳のパフォーマンスをチェックできます。テスト結果では同年齢の平均と比べた、脳の健康度を確認できます。定期的にチェックすることで、以前の結果と比較することも可能です。
※「のうKNOW」は疾病の予防や診断を目的としたものではありません。
見積もりシミュレーション
脳の健康度測定(「のうKNOW」)、イベント運営の概算費用を算出できます。